春爛漫 入湖の時期は外海の水温推移による魚の活性と入湖時との差で決まる

 そのシーズンのキビレ第一号が釣れるのは、「3月になって2度目の大潮まわり、水温が13℃を超えたところ」といわれてきた。しかし、最近はこのセオリーがアテにならず、3月のうちに40匹も釣れる華々しい開幕があったり、やっと1匹が名乗りをあげるだけ…という寂しい釣期インがあったりする。
 こうした乗っ込みの(遅早)に関わるのは基本的に水温なのだが、その他の要素が幾つか絡み合ってシーズンインの形態が決まる。そのメカニズムも次第に解明されてきているので次ぎに詳解してみよう。

 ●外海の水温と魚の活性

 キビレの生態については未解明の部分が多く、最も肝心な越冬場所ですらどこであるかも解明されていない。春先に今切沖漁礁で釣れる事実、40m内外の外海で越冬するといわれることなどから、あの周辺…ではないかと推察される程度だ。 乗っ込みが早いか遅いかは2〜3月の外海の水温と、対する浜名湖の水温にかなり左右されることが分かってきた。つまり、乗っ込みを直前にしたキビレたちの活性がどの程度なのかということ。その幾つかのパターンを次ぎにあげてみる。

@快適な冬を過ごした場合

 たとえば黒潮が沿岸に接近していて水温が高めの冬を過ごすと、今切口周辺に集結したキビレたちの活性はかなり高い。外海の水温は黒潮、あるいは黒潮の分枝流に影響される。これに対して、浅場の多い湖内の水温は気温の影響を多大に受ける。暖冬の高気温推移であると湖内水温も高めであり、外海との水温差が2℃程度であれば乗っ込みへの障害は何もない。このケースでは3月中旬の大潮前に第一号名乗りがあって、20日前後には連日の釣果が出始める。3月のうちから3番西ミオで二桁釣果の出る(順当開幕)パターンだ。しかし、外海の水温が高く推移したにも関わらず、厳しい冬であると低気温が続いて3月始めでも湖内水温が10℃前後という場合もある。外海と湖内の水温差が4℃ちかくもあると、今切口まだ快適に旅をしてきたキビレたちは、その水温差の壁に阻まれて足止めされてしまう。
 このケースでの3月の乗っ込みは乏しく、4月上旬になって水温が上がってからやっと釣期インする。足止めされていたので群れの密度は濃く、連れ始めた途端に大釣れの(桜満開の大釣れ開幕)パターンだ。

A厳しい冬を過ごした場合

遠州灘沖に冷水塊があって黒潮が迂回するなど外海の水温が低い冬であると、キビレたちの越冬も厳しい耐乏生活を強いられ今切口に到達しても活性は乏しい。気温に影響される湖内水温が平年並であればその水温差は少ないわけで、入湖を阻む要素は少ない。今切口に到着した順に大湖して行くのだが、入湖はしたものの活性が乏しいので適水温になるまで口を使わず、釣果のないままひそかに散開して行くケースとなる。第一弓名乗りが庄内湖入り口であるなどという〈バラバラ乗っ込み〉のパターンとなる。逆に外海が低水温なのに湖内水温が高い状態だと、しばらくの順応期間をおいて3月25日頃から連日釣果となる〈順当開幕〉パターン。この場合も乗っ込みの足は意外と伸びていて、3番西ミオから奥カメまで広俺囲で釣れ始める。最近は外海の高水温推移が多く、釣れ始めのパターンを決定づけるのは湖内の推移次第であるようだ。湖内状況を基準として以上のケースをあてはめてみれぱ、おおよその乗っ込み形態と狙うポイントが知れてこよう。

 ●3月と4月はリンクする

3〜4月の乗っ込み期の釣況は連動するものである。つまり、一定数の乗っ込み群か3月に釣れてしまうか、4月にヤマ場があるかなのだ。前項で解説した乗っ込み条件によって、初期より群れの密度が濃ければ華々しい開幕となり、水温が安定するまでポツポツと乗っ込めばヤマ場のない雨垂れ開幕となる。キビレハンターたちとすれぱ密度の濃い方が群れを捉らえやすく、必然的に釣果は増える。バラバラ乗っ込みで散開してしまえば、群れを捉らえにくく釣果もいまひとつに終わってしまう。つまりぱどこにヤマ場があるかなのだ。3月に絶好調スタートを切れば4月は乏しく、3月が寂しければ4月が華々しくなる。あるいは3〜4月にヤマ場がなくダラダラと釣れていくと、G・W過ぎまで乗っ込み釣期が続く。4〜5月中旬までを月ごとに分けて捉らえるのでなく、その期間全体を乗っ込み期として考えリンクさせれば分かりやすいだろう。

梅雨期 ブロックを伝わって段階的に湖奥を目指すのが散開期のキビレたちの動き 

 5月中旬からは湖内順応をすませたキビレたちが、さらに湖奥を目指す散開期。乗っ込み期に村櫛ラインまで達したキビレの群れが、3番ミオから細江湖、日の出から庄内湖全域、中之郷から猪鼻湖へと散開するこの時期キビレたちはどのように奥を目指して行くのか、どういう捉え方をすれば釣果に結びつくのかを考証してみる。

 ●ブロックを伝わる

 初夏の頃、キビレたちが目指す湖奥はまだ完全に目覚めてはいない。つまり、外海の潮の恩恵を受ける村楡ライン以南とは違って、水温が安定してはいないのだ。加えてキビレ自身も本来の活性を取り戻してはいず、不安定な湖内環境に少しずつ順応しながら湖奥に移動して行くのである。その段階的な行動と
してブロックからプロックヘの移動を重ね、次第に湖奥を目指す。まずはブロックがどういうものであるかを理解しよう。ブロックとは深場、カキ欄など昼間の隠棲場所があって、その近くには夜間に就餌回遊する浅瀬などが一対となっているポイント。具体的にいえば亀ノロからA航路、さらに村櫛海水浴場という一つひとつがブ回ックである。キビレの群れは一つのブ回ックに4,5日ほどとどまって盛んに餌をあさり、体力を回復しながら次のフロックを目指す。これをベテランハンターたちはキャリアによるカン、あるいはデータによって捉らえる。この時期はここ、その後はあそこ…という具合に散開の進行状況を把握しつつ、ポイント
を先取りして好釣果を上げるのである。

 ●定点で待つかそれとも

 5月のうちは次々と群れが遡行してくる。実積のあるブロックであれば、第1群、第2群と一定間隔をおいて群れが訪れるのだから、ベテランたちのように先取りのみを考えなくてもよい。この時期の実積ポイントの定点で待っていれば次の群れがやってくるはずだ。なぜ、ベテランハンターたちは先取りをするのか。キビレ釣りは釣期による群れの動きを推測し、それを捉らえる〈頭脳ゲーム〉だからである。自分の推理が当たって捉らえた1匹は満足度が高いからだ。

 ●梅雨隠れの意味

 キビレたちが散開途上の頃に梅雨期がやってくる。この時期にパタッと釣果が落ちることがあって、これを〈梅雨隠れ〉と呼ぶ。原因には日照が少ないことと降雨による水温低下が考えられる。実際に就餌活動が鈍くなるので釣果数が減り、情報不足からさらに釣果が減るという悪循環に陥ってしまう。こうした条件下ではたとえアタッても食いは渋い。一つのアタリを大切にし、ジレていい加減なところで合わせてしまわないこと。脅さなければ幾度もエサを食ってくるはずで、目先を変えて他種のエサをつけてやると引き込むことも往々にしてある。水温低下が原因であれば、安定した外海の湯の層くポイント、その潮が入ってくる上げ潮時を狙うなどの対策がある。

 ●アクシデントが起きた場合

 梅雨の終わり頃、気温はかなり上がっているのに大量の降雨があったりすると細江湖や奥庄内の潮が悪くなることがある。濁った降雨水が溜まって、そのうち苦潮や赤潮の類に変化するもので、これが発生すると魚たちはきれいな水を求めて南下し始める。時期が8月に近く重症であると、そのまま落ち…などということもあるが、多くの場合は一時的な避難行動。こうした悪潮の塊が下げ潮に乗って下り、上げ潮で押し戻される。キビレの群れはこの悪潮に押し出されて南下し、中途半端な位置に群れが溜まる。ベテランハンターたちは経験的にこのことを知っていて、下ってくる悪潮の端スレスレで群れをキャッチし驚異的な釣果を上げる。

落ち その形態は台風などによるアクシデント次第ないもなければ釣期は10月まで続く

 落ちの始まりは8月上旬、その形態には乗っ込みと同じく幾つかのパターンがある。何かのきっかけがあって一気落ちすれば、落ち群れは濃くなって短期間に華々しく釣れ盛って終わる。逆に落ちを促す出来事がなければ、ダラダラと下って行く雨垂れ落ちとなり、必然的に釣期は長くなって10月初めでも釣れている状態になる。次にされぞれの落ち形態を考証してみよう。

 ●華々しい一気落ち

 8月中旬頃には台風が連続発生する。外海に余波が押し寄せるぐらいでは湖内の高潮程度だが、本土上陸となると少なからず湖内の魚だちのライフサイクルに影響が出る。台風による大量の降雨があるとその後遺症として、しばしば悪潮の発生がある。つまり,洪水による出水が外海の高波がつくる湖内の高潮とあいまって、湖芯部に居座ってしまうのだ。高潮で流れの緩くなった浜名湖は自浄作用が弱まり、濁った雨水を湖芯部に溜め込みやがては悪潮となっていく。これが引き金となって湖奥のキビレたちは一斉に南下を始める。アクシデントが重症であれば一気に落ちが始まり、群れの密度は濃くなって釣果は華々しく連日の大的れに沸く。しかし、9月に入ってからは急に乏しくなって、シーズンをあっけなく終わってしまう。こうした落ちパターンでは、いわゆる〈落ち街道〉での定点待ちが効果を上げる。本湖側では3番ミオ奥カメ、庄内湖側では日の出、その両者のバイパス的存在の村櫛ミオで釣れ盛り、猪鼻湖筋では鷲津〜中之郷が賑わう。

 ●釣期の長い雨垂れ落ち

 落ちを促すアクシデントが何もないと、南下するテンポもすこぶる遅い。行動を起こさせるのはキビレたちの体内に刻み込まれた本能であり、これには固体差があるからポツリポツリと軒先から落ちる雨垂れにも似た落ちの形態となる。これといった華々しいヤマ場もないのが特徴で、次の群れが倒達するまでにしばし間があったりする。ただし、このぺ一スが9月になっても続き、さらに10月になっても釣果の出ることがある。例年パターンに捉らわれていると落ちの始まりを見逃しかねない。いつの間にか群れの大半が通過してしまった…ということもありがち。こんな場合は今切口でのキビレ釣果に注目する。特こ流し釣りで釣れかかるのは群れの先頭隊が、すでに今切口まで到達した証しである。

 ●最終戦は2kgとの対決

 落ち群れのシンガリを務めるのは2kgクラスの大型キビレである。レギュラーサイズの南下が一段落し、やや間があってからが大型の落ち。たとえば9月中旬までレギュラーサイズの釣果が洗いだとすれば、1週間ほど間をおいた9月末に2sクラスのラッシュがあるという具合だ。95年の落ち朗はその典型で、9月末から10月第1週にかけて2sクラスが連発している。一段落したところであきらめてしまわず、信念をもって待ち涜けることが大型釣果への途だろう。