OOP・S東京連絡所 シーバスレポート 8  「新たなる世界」

ソルトワールドVol.40 特集「近海徹底主義」で、玉ちゃんと良太が開発した「トップで黒鯛」が、全国に紹介された。取材当日の様子は紙面より濃く実況をしてくれた本部のメンバーからの情報で僕はよく知っている。
当日は記者さんも入れ食い状態の黒鯛を前に、ワークツールをペンからロッドに持ち替えたとか何とか。とにかく内容もよく、すばらしい紙面を我がティームが飾ったことを誇りに思うと同時に、この次は僕の特集を組んでいただきたいと密かに願う。(注:ここは笑うところです)


最近は雑誌よりインターネットの“E”サイトのほうにはまっていた僕は、シーバスに関する多くの情報を見過ごしていたらしい。東京では有名な「東京湾の悪魔」と呼ばれているアングラーのサイトが大人気らしいことに最近になって気付いたり、トーナメントの団体が盛んに活動していたりすることもよく知らなかったりだ。そこで頑張って勉強してみると、シーバスマガジン、ソルトストリームなどの雑誌はポピュラーで、多くのアングラーが読んでいるらしいことがわかった。インターネット仲間で作られている団体などは前回「江戸前・・・」で紹介したような東京の現状を真摯に受け止めて、決して押し付けたり驕ったりすることなく話し合いを通じて解決するべく活動している。
また、釣り人のふれ合いから学ぶことの多さをうたい、パーティーやトーナメントを開催する有名な団体もある。

雑誌の影響力はすごい。なぜかどっぷりはまっているキチガイアングラーが主役で、その主張やテクニック、スタイルなどが紹介される。
読者は好きなスタイルのアングラーのニア・イコールを模索すれば結果を出すことができる。すばらしいマニュアル群だ。マクドナルドも真っ青になる。新商品の広告もいち早く掲載され、とても便利だ。行き過ぎや嘘つきだったりする広告の中で、メーカーや商品の位置づけをある程度把握しておかないと全商品を試しに買ってテストする羽目になってしまいそうだが、あのメーカーがシーバスロッドを作るとこんなに安くできるのか・・・・と驚かされたりもする。

僕の中の有名人はといえば、故・西山徹さん。彼の記事や番組を見たり、著書の影響を受けた。「国際釣り博」まで追いかけていって、サインまでもらう始末だった。その結果「釣りとは楽しいということ」、「楽しむためのライフツールであること」を教わった。いつか浜名湖のシーバスをフライで釣って、故・西山さんの墓前に報告したい。


ルアーの情報とはそんな雑誌の風に載って広がって、信者を増やしているのだろう。僕はときたらミサキ(マリア)・ザ・ファーストのレッドヘッドで、3.5号ラインで、9フィートのロッドで、シマノの4000番が定番のクラシックアングラーだ。やはり当時は少数だった釣り雑誌を読んでこのタックルがいいと紹介されていたからだ。
今でもラパラやザ・ファーストは神器だと思っている。景品が当たると信じてラパラのパッケージを集めたものだ。二子玉川の沈ごみにザ・ファーストがいくつも餌食になって沈んでいる。少なくても3個は僕のだ。環境に配慮するべく腕を上げなければと反省している。

よくベッドの上で「釣り人」に乗っていたラインシステムの作成マニュアルを見ながら、よだれだらだらたらしながら、ヨガのポーズのようになりながら、ラインを撚ったりリーダーを焦がしたりしたものだ。最後に残ったラインを切ってフィニッシュ。よくメインラインを切ってしまったことが懐かしい。

吉祥寺の有名ショップの店員は「京浜島で釣れてます」とダイワのクロスカーボンのロッドを僕らに勧めた。中原街道の有名店でラパラを仕入れて、大ダモ片手に京浜島へ。あのころ、いい思いをする方程式は何もなかった。レッドヘッドこそシーバスへの道だった。

釣れたという真実にこそドラマがあった。
ポップクイーンを3メートルも下の水面相手にキャストしては、半信半疑のナイトゲームを繰り返した。笑われるかもしれないけど、本当の話だ。それでいつか釣れると思っていた。楽しかったのだ。仲間とのふれあいの日々。


話を現在に戻そう。
この秋、隅田川が釣れない。僕が釣れない。僕だけ釣れないのか・・・・・
隅田川の情報発信基地ともいえる「G」さん(声に出して読まないでください)のHPでお世話になっているSさんにBBSで聞いてみた。久しぶりだったが気持ちよく答えてくれた。

僕の恐れていたとおり、渋いながらも他の人は釣れている。

最近わかって来たのだが、ホログラムが流行している。パールカラー、メタリックなどをそろえれば、大体のシチュエーションにあわせることができるみたいだ。
後は、深度やアクション、スピードなどをバリエーションに加えれば、「釣れない時は魚がいないとき」と言い切れそうだ。ルアーは進化した。ラパラもホログラムを出してほしいなぁ・・・・


「G」さん(くれぐれも声に出さないように)のHPが新しくなっていた。
リンクにはご自身が所属するトーナメント団体のサイトや、ガイド船などが紹介されていた。
この団体は初戦が冬の間、しかも暮れに行われるトラの穴のような団体で、選手たちはさしずめタイガーマスクとその仲間たちといったところだ。反則技の多い世の中で元気いっぱいに頑張るトーナメンターたちの姿がそこにある。湖を守るための植林活動は有名だ。


HPを久しぶりによくチェックしてみると、Tokyo Bay Sea BASS Fishingというサイトが貼ってある。またまた僕はこのタイトルから目が離せなくなった。
「ここだ!(G)さんのお仲間で、さらに僕のようなスタイルの、そんでもって年齢も近い!!すごい。海況レポートが貼ってある。なるほど、表面の塩分かぁ・・・・浜名湖のウオットの資料みたいだ・・・・難しすぎてわからないけどなんだかすごい!」

一発で気に入ってBBSに書き込んだ。「沖」のサイトに見入ったときのように夢中になった。するとどうだろう、すごいスピードでRESが・・・・・
彼のBBSにお邪魔すると気が付くことがある。必ず「いらっしゃい○○さん」とRESがあるのだ。常連でも、お初でも。彼の人柄を感じることができる。

このサイトの運営者(管理人)が後にOOP・S関東連合会千葉支部を発足することになるとはこのとき少しも思わなかった・・・・・(アイダさん、勝手に発足させてすいません)




トゥルルルル・トゥルルルル・ぶちっ
「お疲れ!」

「お疲れさまです!」

「あのさぁ、この間インターネットで知り合ったんだけど、浜名湖に興味あるっていう人がいてさぁ・・・・」

「は、はい?」

「だからさぁ、OOP・Sの仲間になってくれそうな人がさぁ・・・・」

「あっ、そうなんですかぁ」

「最近仕事忙しすぎるんじゃないの?」

「もう、やめようかと思ってるんですよぉ・・・・」

「え、ええ?・・・・・や・め・る・・・・
お前がいなけりゃそこの仕事誰ができるっていうんだよぉ!」

「食って行けないんです。子供も欲しい・・・・」

「わ、わかった。ゆっくり話そう。ところで忘年会ってことで、どう?久しぶりぶりに飲みを入れようぜ!そんでもってピーズさんのガイド乗ろうよ!」

「そ、そうっすね。そろそろ75センチが俺を呼んでいると思いますし!」

「そ、そうだよ!新しい仲間もできることだし、楽しくいこうぜ!」


やっぱり鈴木君の人生は僕が狂わせているようだ。


IT企業に勤める管理人のアイダさんは、横浜地区のイザワさんをメール等で紹介してくれた。お近づきのしるしということで(完全にOOP・Sのメンバーとして迎えようとしているが)一杯やることにした。2003年の最後を飾る、OFFシーズンの活動になりそうだ。去年は本部の仲間が来てくれた。街はクリスマスのイルミネーションが輝いていたが、今年もそのシーズンがやってきた。


聞くところによると、アイダさんはラパラの愛用者で趣味が合う。
イザワさんは僕が昔仕事で通った地域、横浜にお住まいのようだ。何か接点というものはあるものだ。大体、釣りが好きだというだけでこんなにも仲間が増えていくなんて、心からすばらしいと思う。レッドヘッドのザ・ファーストしかなかったあの頃には想像すらしなかった・・・・・
違う神様を信じている人たちや、力こそすべての人たちもSEA BASSの世界に来ればいいのだ。隅田川や浜名湖で聖戦に参加できるのに・・(言い過ぎか)



そしてその日はやってきた。
会社のマシンは僕の独占状態。みんなとのメールのやり取りで一生懸命だった。K駅に19:00.身勝手に決めさせてもらったが、みんな忙しいようだ。
IT企業というのはもともと職人の集団のようなもので、みな孤独な技術者だ。仕事の期日は間に合うのか・・・・・どちらかというとサービス業の僕らはクリエイティヴ産業にある“生みの苦しみ”を知らない。納期の壁を乗り越えてくる2人が心配だが、多分僕の立ち入る場所じゃないだろう。

新宿駅でこの時間なら間に合う・・・・
ん?アイダさんからメールだ。何だろう?・・・・
今、新宿に到着・・・・少し遅れる・・・・  ・・・・?

あれ?僕と同じ電車かな?いや、一本後か・・・

程なく神田駅に到着してみると鈴木君たちが先に待ち構えていた。
彼らに会うのも久しぶりだが、昨日まで一緒に過ごしていたかのように合流し、まだ見ぬ新しい仲間を待つことに。
程なくして、改札を出たというメールがアイダさんから来る。
ドキドキしながら新しい電話番号にコールした。

「えー、今どの辺でしょうか・・・?」
「どの辺というか・・・・あー・・・」
「あー・・あ!?」
電話のボタンを切りながら近づく2人。
この人だ。ホームページに少しだけ写っていたアイダさんだ。
確かに、大同のベージュコート、エンジのネクタイだ。よかった、予定通りこの場所で会うことができた。

かくしてアイダさんの右手は僕の右手を握っていた。
イザワさんが少し遅れることになっている。早速、鈴木と片柳を紹介した。

時間がもったいないので近くの店に入ることにしたが、年末のKという街に簡単に入れる店を探すのが、「朝霞で入れ食い」ほどに難しいメソッドだと気付いたときにはイザワさんも到着していた。

店を探すこと10分・・・・混んでいる。
酔っ払いでいっぱいの店内には不景気を思わせない活気があふれていた。流石東京の経済を担うべく企業が集中しているKだ。かつては僕もこの町に通勤していたが、今も残る思い出の店はカツの弁当を売る「K進」くらいで、18年の歳月を感じずにはいられない。
しかし、江戸の粋を代表するこの街では5月には紺色の足袋を履いた集団で埋め尽くされる日がある。東京の代表的な祭礼の中でもこの街の祭りは、ふんどしや股引などの姿を見ることはない。(あるけど認めていない)紺一色に着飾った集団は美しく、粋に江戸情緒を表現する。ハワイのロコも正しいファッションを持っているように、江戸にも正統派は存在するのだ。

そんなKの街でやっと発見した“入れる店”で腰を落ち着けたが、向かい合ってみると何を話していいやら、まるでお見合いのカップルが頭を掻きながら「趣味は釣りです」などとやるように始まった。いい親父がほほえましい光景だ。この街の粋なはからいに助けられなければ、ただの変態な親父集団だったかも知れない。

僕は新しいメンバーに漁多ONEを渡し、少し早いクリスマスプレゼントとした。モニターが増えると威力も分かる。横浜、東京、千葉とくれば、東京湾のポイントをすべて網羅できる。すごいネットワークができてしまったものだ。

一通り釣りの話で盛り上がったが、僕たちに与えられた時間はあまりにも少なかった。上手に話題を仕切って、自己紹介や得意なメソッド、お互いの価値観などを話そうと思っていたのに、すべてが溢れんばかりの全員に、話を整理できるほどの秩序は生まれなかった。

あっさりと解散して、それぞれ翌日に備えたが、もっとも近くに住んでいる僕はなんとなく申し訳なくなる。家に到着したときには、得意のメールで自己申告してしまった。


一夜明けて、僕は休日だ。
意外に早く目覚めた。昨夜の自己申告に2人から返事が来ていた。そうだ・・・有り得ないことが起きたのだ・・・・・

ネットで知り合って、10日後には酒を飲んで忘年会。今風に言えば、“普通に仲間”・・・・だ。僕は浜名湖に通い始めたころのことを思い出した。一心に浜名湖の魚を追いかけた・・・今もその気持ちは膨らむ一方だが、あの時と同じだ。

ネットで知り合って、翌日には仲間として迎えてくれた誠さんや良太、浜名湖の仲間たち。
またネットで知り合った仲間がシーバスを介して増えていくのだ。神が与えた道しるべか、もう信じられない位に神がかりだ。信仰のない僕にも「魚教?」という新興宗教が信じられるようになりそうだ。


来期はきっと新しい仲間と浜名湖に行くことになる。僕一人だった浜名湖ファンは毎年増えて、みんなに出会いと思い出を与えてくれる。このことで僕は大人になり、僕の人生は豊かなものになってゆく。
魚を、釣りを、そして仲間を通じて得るものは、人生そのものなのだと気付かせてくれる浜名湖。そして東京の海。世界の海は7つに分けられているけど、全部つながっていることにみんな早く気付いて欲しい。



あとがき

フセインが捕まったらしい。
戦争は産業を生み、人々を殺す。

社会ではみな金のためになることを一生懸命にやっている。
そのこと自体はいいことなのだろう。けど、文化はいつも犠牲になる。仕事こそ文化なのだろうか・・・・

昔、暴走族が溜まるからといって、埠頭を渡る風は聞けなくなった。
同時に夜間釣り禁止エリアが増えたことになった。それでも釣っていた僕らと、船のクルーのお決まりトークはこうだった。

“何が釣れるんだい?”
“シーバっ・・スズキですよ、なんていうか、フッコです。”
“何を運んでいるんですか?”
“紙だよ、なんていうか、輸出するんだ。遠くの国だよ”
“船は揺れますか?”
“ああ、いい調子にゆれるんだ。この船は積みすぎなんだよ・・・”
“気をつけて、お仕事ご苦労様です。僕ら、こんなところで遊んでいて・・・・”
“ああ、気にすんなって!こっちも海の上では遊んでいるようなもんだから”
パトロールカーが回転灯をまわしながら僕らの横を通り過ぎていく。
タバコはやめておいた。警備に余計な仕事を増やすことになりそうだから。

おじさんは楽しそうに話した。釣りを通じて触れ合った異業種交流の場。
もっとも海の上が遊びのはずはないが、妙に納得して聞いていた。


最近はドリフト族と、右側に偏った方々の聖地になっていた埠頭も、アメリカ同時多発テロの影響下では暗視カメラでチェックされているに違いない。完全に僕たちは閉め出された。
アングラーに変装したテロリストが現れたり、爆弾事件が起きたりしないで欲しい。自衛隊派遣で「シーバスフィッシング禁止令」なんてお達しが出たらアングラーは街で暴れたり、プラカードをもって役所に押し寄せたりするだろうか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・きっと答えは海の上だ。